天野 若人 11

(あまの わかひと)


番外編2

「1986年夏・カニ捕り名人」


 1986年6月、鳥取県・米子市の皆生温泉に、昼過ぎには到着した。
 年に一度の1泊2日社員旅行である。あまりゴルフがうまくない僕は、ゴルフ組には参加しなかった。
 山陰育ち! 懐かしい日本海で、ゆっくりと海岸散歩でもするか。

 梅雨入りするまでの6月はじめは、日本海が一番“日本海”らしい一側面を出す季節でもある。
 日本海の海岸特徴は「素晴らしい砂浜」と、荒れた海のような「モザイク模様の岩場と切り立つ断崖」との、両側面がある。特に、弓ヶ浜といわれる美保湾を形成する白砂は、20キロも続く、日本海でも有数の砂浜である。

 1985年1月に赴任した新たな事業のトップ:Aさん(親しく、アーさん)と経理を総括する:Fさん(親しく、フーさん:そういえば、言動に“フーテンの寅さん”らしいところもあった)と僕は、3人ともゴルフはしないので、夜の会食までの時間、目前に広がる白浜を散策することになった。

 2,3センチのカニが、波打ち際で遊んでいるかのように走り回っていた。子ども達が波遊びをしているようにも見える光景だった。
 アーさんは、東北の育ちで海には関係が薄い出身だった。紺碧の日本海をバックにした、境港へと続く白い砂浜と緑の松林に、心安らぐものを感じて、童心に返ったようだ。
 突然、カニを捕らえるべく、カニを追いかけ始めた。

 小さいけど、“速い、速い”。
 やっと、捕まえそうになった!!

 いないぞ!

 波打ち際に、無数の小さな穴がある。このカニの巣穴(住居かも?)が、無数にある。

 アーさん、逃げ込んだ“穴”を掘り始めた! かなり掘ったが、カニは見つからない。
 次のカニを追っかけた! 結果は同じだ。

 僕はしばらく、この光景をフーさんと見ていた。

 流石に、僕も気の毒に感じ始めていた。何度目かに、逃げ込んだカニ穴を掘り始めるアーさんを制した。
「僕が捕りましょう」と、こともなげに話して、カニ捕り作業にかかる。

 僕は、波打ち際から少し離れた白い砂を取り、カニ穴に入れ始める。
 3,4度繰り返すと受け入れなくなる。

 次に、カニ穴を掘り始める。
 目印は先ほど入れた白い砂・・・掘る場所を教えてくれている。

 “カニ”が捕れた!! アーさん、大興奮!!
 2,3度すると、2人は納得。

 アーさんもフーさんも夢中になって、“カニ捕りゲーム”に興ずる。

 6月の日長の太陽も、日本海へ沈み始める。


 宿に戻って、宴会の始まる前に入った湯船から見る日本海は、殊の外、青くてきれいに見えた。

 夜7時、日長のこの日もとっぷり暮れて、日本海にはイカ釣りのいざり火も見えていた。
 宴会は、トップであるアーさんの挨拶から始まる。
 決まり文句から始まる。
 興が乗ってくる。
「今度、システム課に転勤してきた“天野君”、彼は、“カニ捕りの名人”である」

 社員は“ドット”沸く。
 フーさん、吹き出す・・・日長の山陰の温泉宿での一コマだった。

(最近の関係概略図)

 最近の米子市及び皆生付近を確認した。





“びっくり”、“びっくり”
砂浜が“ギザギザ”になっている!!
海水浴場にして、沖合には波除ブロックを設置したな!
砂浜はこんな風に波打ってしまう!!




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